8月13日


その日のスケジュールは、象牙多層球をみるために『象牙と石の彫刻美術館』へ行き、その後サンハトヤの海底温泉へ向かうというものだった。

象牙多層球とは、ゾウゲタソウキュウと読む。
先輩Tが昨日の車の中でずっと「ゾウゲタソウキュウ!ゾウゲタソウキュウ!」と連呼していて、なんかの呪文か?と思いながら特に気にしていなかったのだが、本当は「象牙多層球!象牙多層球!」と言っていたのだった。
象牙多層球が気になったら是非検索してみてほしい。

2日目の熱海は台風が直撃で朝から大雨であった。
先輩Tが運転する車に乗り込み『象牙と石の彫刻美術館』へと向かう。

大雨のドライブというのが私は大好きだ。なにがいいかというと、本来ならびしょ濡れで風にあたりながら震えて歩いていたであろう道中を、ぬくぬくとして風も吹かない車の中に座っているだけで目的地に到着するのだからこれほどの贅沢はない。
現代に生きる私たちだからこそ享受することのできる贅沢なのだ。


『象牙と石の彫刻美術館』には予想をはるかに超えた象牙の作品があった。しかも、どれも豪華絢爛絢爛豪華であった。
何世代にもわたって一つの作品を作る職人たちにも脱帽であるし、その作品を作って購入する者にも脱帽である。煌びやかな時代の作品と技術を見ることができた。
先輩Tは象牙多層球をあらゆる角度からご高覧して大変ご満悦の様子であった。

わたしは象牙を使った麻雀牌に感動した。贅。


その後は、サンハトヤに向かう前に腹ごしらえをするために近くのファミレスに向かった。
大雨のファミレスもなかなか乙なものであると話していると、全員の携帯にアラームがなった。台風の注意喚起のようだった。
外に出ると雨がかなり降っていたので走って車に乗り込み、今回の旅のお目当てというべきサンハトヤの海底温泉へと向かった。


地下の温泉の壁一面が巨大な水槽となっており、まるで海底にいるかのような錯覚を覚える。それがサンハトヤが誇る海底温泉である。
車でサンハトヤに到着した頃には台風が本気を出しているようで、エントランスホール前に植えられた木が倒れそうな勢いだった。


私と友人(Sちゃん、F)は早速服を脱いで温泉内に入る。お〜!と感動の声が出た。
室内の温泉の壁が大きな水槽になっていて、小魚やサメやウツボなどがたくさん泳いでいた。
既にネットの写真で見ていたので感動しないかと思っていたが、存分に感動したし水槽の前でたくさんはなした。
「この魚はずっと一人でいる。はぐれたんだろうか」「すぐ横の海から獲ってきた魚なんだろうか」「これだけ近ければ手で持ってこれそう」

その後は、露天風呂に移動した。当たり前だが、台風真っ只中の露天風呂は荒れに荒れており温泉内に雨がドシャドシャ入って本来は暖かいはずの湯船はぬるいお湯となっている。
海底温泉という名前だが海よりはかなり高い位置にあって、そこからみえるのは大荒れの海と今にも薙ぎ倒されそうな背の高いヤシの木だけだった。
晴れていたのならば、熱い温泉に浸かりながら青い空青い海をみて語らうのであろう。しかし、私たちはほぼ水のぬるい温泉に浸かって、曇天の空と荒れ狂った海を見ている。
どう考えても、最悪と答える人が多いと思う。現に露天風呂にはいつのまにか私たちしかいなかった。しかし、わたしはこの状況が嬉しくて楽しくて仕方なかった。
だってこの日は蒸し暑くて熱い温泉には長く浸かって入れなかっただろうし、青い空と青い海なんてありふれていて記憶に残らないだろうから。
旅行というだけで非日常なのにさらにこのシュチュエーションである。もしかしたら年老いて死ぬ直前に思い出すのはこの光景かもしれない。と思うほど、鮮明に脳裏に焼き付いた。

大雨、暴風、露天風呂
わたしたちは雨にも負けず、風にも負けず露天風呂で過去から未来のことまで語り合った。

私たちがキャピキャピと温泉から出ると男性陣(先輩T、Y、Fの彼氏)は待ちくたびれたように、くたびれたゲームセンターの隣のソファに座っていた。
海底温泉を満喫したわたしたちは男性陣の感想に耳を疑った。

曰く「水槽がしょぼかった」「魚が少なかった」「雨がすごくてお湯が冷たかった」らしい。
なんとも可哀想な奴らである。



つづく


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